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東京高等裁判所 昭和52年(行ケ)75号 判決

原告

河野均平

被告

特許庁長官

上記当事者間の標記事件について次のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第1当事者の求めた裁判

1. 原告

特許庁が昭和52年1月21日同庁昭和49年審判第8287号事件についてした審決を取消す。

訴訟費用は、被告の負担とする。

2. 被告

主文と同旨

第2原告の請求原因

1. 特許庁における手続

原告は、名称を「農地兼用の建物」とする考案(以下、「本願考案」という。)につき、昭和42年4月7日実用新案登録出願をしたところ、昭和49年8月19日拒絶査定を受けたので、同年10月9日審判を請求し、特許庁昭和49年審判第8287号事件として審理されたが、昭和52年1月21日右審判請求は成り立たない旨の審決があり、その審決謄本は同年3月16日原告に送達された。

2. 本願考案の要旨(登録請求の範囲)

鉄骨又は鉄筋コンクリート造りの建物にして、1階を住宅、工場、倉庫、牧舎に適応するごとく造り、2階以上を農地に適応するごとく造り、これら構造、仕様全く相違する2種の建物が合体してなる組合わせ構造。

3. 本件審決の理由

(1)  本願考案の要旨は、昭和48年12月13日提出の全文訂正明細書及び補正図面の記載、特にその実用新案登録請求の範囲の記載よりみて、「鉄骨又は鉄筋コンクリート造りの建物にして、1階を住宅、工場、倉庫、牧舎等に適応すべく造り、2階以上を農地に適応すべく造り、これらの建物を合体してなる組合わせ構造。」にあるものと認める。

(2)  これに対し、本願考案の登録出願前国内において頒布された刊行物である伊藤邦衛著「住宅庭園・環境と設計」(誠文堂新光社発行)の第95頁ないし第99頁(以下、「引用例」という。)には、銀行、会館、ホテル、ビル等の屋上に植土を施し人工によつて土地を作ること、該土地に草花、樹木等を植栽すること、及び建物に前記植栽に必要な強度と防水性等を持たせるようにすることが記載されている。

(3)  そこで、本願考案と引用例に記載された考案とを比較すると、両者は、いずれも、建物の上層階に人工植土を施し、この土地を植物の栽培に利用する、すなわち、植物栽培用の土地とし、前記建物に植栽に必要な強度と防水性等を持たせるようにしたという点においては相違がないけれども、(イ)建物の種類が、本願考案では住宅、工場、倉庫、牧舎等であるのに対し、引用例では銀行、会館、ホテル、ビル等であること、(ロ)本願考案が2階以上に人工植土を施したのに対し、引用例は屋上に人工植土を施していること、(ハ)本願考案がこの人工土地を特に農地にしたのに対し、引用例は植物栽培用土地としたこと、以上の3点において一応の相違が認められる。

しかしながら、(イ)建物として、住宅、工場、倉庫、牧舎はもちろんのこと、銀行、会館、ホテル、ビル等はすべてが普通にあるものであつて、かつ、これらのいずれのものに植土して植栽を行なつても、その効果に格別の差異は認められず、したがつて、本願考案において建物を限定したことに特段の考案があるとはいえない。(ロ)建物の2階以上に植土するか、屋上のみに植土するかは、その建物を利用する目的によつて当業者が取捨選択できる程度の事項にすぎないから、本願考案のように2階以上に植土を施す構成にすることは、格別の考案力を要するものでない。(ハ)人工土地を植物の栽培に利用するという引用例がある以上、その植物として稲、麦その他農業用のものを植えて人工土地を農地として利用するという本願考案は、引用例から必要に応じてきわめて容易に想到しうるものである。

(4)  したがつて、本願考案は、引用例に基いてきわめて容易に考案することができたものというべきであるから、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができない。

4. 本件審決の取消事由

本件審決は、本願考案の要旨の認定及び解釈を誤り、引用例との対比において、両者の目的及び構成上の重大な相違点を看過誤認した結果、本願考案の進歩性を否定した違法があるから、取消されるべきである。

(1)  要旨認定の誤り

本願考案の要旨は、明細書の実用新案登録請求の範囲に記載(前記2項に掲記)されているとおりであるのに、本件審決は、本願考案の要旨のうち「これら構造、仕様全く相違する2種の建物」という部分を、単に「これらの建物」と認定したにとどまり、これらの建物が「構造、仕様全く相違する」ものである点を認定しなかつた誤りがある。

(2)  要旨の解釈の誤り

本願考案は、1階を通常の建物とするが、2階以上の建物部分を農地に適応すべく造り、両者を合体するものであるから、2階以上は、農作物の栽培に適するように、採光のため屋根及び周囲の壁面をガラス又はビニールとするほか、各階における床通路の要所にガラス又はビニール製の凹レンズ型採光所を設置して、太陽光線が上部より下部まで直射するようにし、また、給排水、暖房のための諸設備を設けているものと解すべきである。したがつて、本願考案の要旨において「2階以上を農地に適応するごとく造る」という意味は、2階以上を農地とするため、当然に、右のような特殊な構造、仕様及び諸設備を備えた建物とすることと解すべきところ、本件審決は、右のような解釈を採らず、本願考案の要旨の解釈を誤つた。

(3)  相違点の看過誤認

本願考案と引用例のものとの間には、目的及び構成において次のような著しい相違点があるにもかかわらず、本件審決はこれらを看過誤認している。

①  本願考案は、農地を立体的に拡大し、農作物の常時安定栽培を可能にすることを目的とするのに対し、引用例のものは、建物の屋上を花壇や庭園として利用することを目的とするにすぎず、本願考案におけるように農地を造るという目的はない。

②  本願考案は、2階以上を農地に適する構造、仕様を有する建物とするもので、前記のとおり、2階以上は、屋根及び周囲の壁面をガラス又はビニールとし、各階の床通路の要所にガラス又はビニール製の凹レンズ型採光所を設け、給排水、暖房用の諸設備を備えている構成である。これに対し、引用例のものは本願考案におけるような右のような構造、仕様及び諸設備を具備していない。

③  本願考案は、2階以上の各階に農地に適した植土を施すのに対し、引用例のものは、建物の屋上だけに植土を施すものである。

④  本願考案は、1階を住宅、工場、倉庫、牧舎等通常の建物部分とし、2階以上を農地に適応するように造り、これら構造及び仕様が異なる2種類の建物部分を合体した組合わせ構造であるのに対し、引用例のものは、単に、通常の既存建物の屋上に盛土をして花壇や庭園とするもので、本願考案のように、構造、仕様が相違する異質の建物を合体し、一つの建物の中に農地に適応する建物部分を造るという技術思想を開示するものではない。

第3. 被告の答弁

1. 請求原因1ないし3の事実はいずれも認める。

2. 同4の本件審決は取消事由があるとの主張は争う。本件審決には原告の主張するような誤りはなく、その結論は正当である。

(1)  要旨認定について

本願考案の明細書中、実用新案登録請求の範囲には、原告主張のとおり記載されており、本件審決が本願考案の要旨認定において、右登録請求の範囲の記載のうち「これら構造、仕様全く相違する2種の建物」という部分を「これらの建物」としたことは認める。しかしながら、「これらの建物」とは「住宅、工場、倉庫、牧舎に適応すべく造つた建物」と「農地に適応すべく造つた建物」の両者を指すことは、登録請求の範囲の記載上自明のことであり、それぞれに適応するように造れば、両者の構造、仕様が相違するものになることは当然の理である。そこで、本件審決は「構造、仕様が相違する」という表現を省略したにすぎず、本件審決がこの点を看過していないことは、建物に対し植栽に必要な強度と防水性を持たせるという構造、仕様に該当する事項について判断していることからも明らかである。

(2)  要旨の解釈について

本願考案の要旨は、本件審決が認定したとおりであつて、原告の主張するように、2階以上につき、屋根及び周囲の壁面をガラス又はビニールとするほか、各階の床通路に採光所を設置し、給排水、暖房用の設備を設けるという構成に関しては、登録請求の範囲に何ら記載されておらず、本願考案が右のような構成に限定されるものと解すべき理由はない。

(3)  相違点の主張について

①  本願考案が農地を立体的に拡大して農作物を栽培することを目的とするものであることは認める。しかし、引用例には、銀行、会館、ホテル、ビル等の屋上に植土を施して人工土地を造り、その土地に草花、樹木等を植栽することが記載されているから、引用例のものも、人工土地を立体的に拡大し、その土地に植物を栽培することを目的とすることが明らかである。したがつて、両者における目的は、人工土地を立体的に拡大してその土地に植物を栽培するということにおいて一致しており、ただ、本願考案は栽培する植物を農作物に限つている点において相違があるにすぎない。そして、本件審決は、両者の対比をするに際し、右の相違点を認定したうえ、判断をしているのであつて、原告主張のように、この点を看過しているわけではないし、また、その判断内容にも誤りはない。

②  本願考案が2階以上の建物を農地に適するような構造、仕様とすることは、原告主張のとおりであるが、前記(2)において主張したとおり、2階以上が原告主張のような特殊な構造、仕様及び諸設備を具備する構成に限定されているわけではないから、植土されるべき床面を支持しうるに足りる骨組構造とし、植栽に使用する水が下の階に漏れるのを防止する装置を施す等技術常識上自明の構造、仕様であれば、本願考案の要旨に含まれるというべきである。一方、引用例には、本件審決が認定するとおり、建物の屋上に人工土地を造り、そこに植物を栽培すること、及び当該建物には植栽に必要な強度と防水性等を持たせるようにすることが記載されているから、引用例のものも、植物の栽培に適応すべき構造、仕様を有する建物であることが明らかであり、本願考案との間に格別の差異はない。

仮りに、本願考案において、2階以上の構造、仕様が原告主張のとおり限定されているとしても、一般に温室として知られている植物栽培用の建物において、屋根及び周壁をガラス又はビニールとし、給排水装置や暖房用装置を設けることは、周知の技術であるから、本願考案のようにすることに特段の考案力を要するとはいえない。

③  本願考案が2階以上の各階に農地に適した植土を施すのに対し、引用例のものが建物の屋上に植土を施すものであることは認めるが、本件審決は、これを相違点(ロ)として認定したうえ、いずれの構成を採択するかは建物を利用する目的によつて当業者が容易に取捨選択できる程度のことである旨判断しているのであつて、右相違点を看過しているものではなく、また、集合住宅等においてみられるように、各階のベランダに人工土地を設けて植物を栽培することは、従来周知の技術であつたから、本件審決の右判断に誤りはない。

④  本願考案が通常の建物である1階と農地に適するように造つた2階以上とを合体する組合わせ構造であることは認める。しかしながら、本願考案において、1階と2階以上とを合体する方法は具体的に限定されていないから、技術常識上自明の合体方法であれば足りるものと解しうるところ、引用例には、銀行、会館、ホテル、ビル等の屋上に人工土地を造り、そこに植物を栽培して花壇や庭園とすることが記載されているから、引用例記載の人工土地のある屋上部分も下層部の通常の建物と合体されているものということができる。

第4. 証拠関係

1. 原告

Ⅰ 甲第1号証を提出。

Ⅱ 乙号各証の成立を認める。

2. 被告

Ⅰ 乙第1号証ないし第5号証を提出。

Ⅱ 甲第1号証の成立は認める。

理由

1. 請求原因1ないし3の事実、すなわち、本願考案についてされた実用新案登録出願から本件審決の成立に至る特許庁における手続の経緯、実用新案登録請求の範囲の記載並びに本件審決の理由は、いずれも当事者間の争いがない。

2. そこで、原告が主張する本件審決の取消事由の存否につき順次判断する。

(1)  要旨認定について

右争いのない事実によれば、本願考案の明細書中、実用新案登録請求の範囲には、原告主張(請求原因2)のとおり記載されているところ、本件審決は、本願考案の要旨として、右登録請求の範囲の記載中「これら構造、仕様全く相違する2種の建物」という部分を単に「これらの建物」を認定している。しかし、右登録請求の範囲の記載内容からすると、本願考案において、「これら構造、仕様全く相違する2種の建物」とは、その直前に記載されている「住宅、工場、倉庫、牧舎に適応する如く造」つた建物部分と「農地に適応する如く造」つた建物部分とを意味することが文理上明らかであり、しかも、それぞれに適応するように建物部分が造られた場合、2種類の建物部分は構造、仕様が異なるものになることは技術常識上自明のことであるから、特に「構造、仕様が全く相違する」との記載をしないとしても、これを記載した場合と比較して、本願考案の要旨とする構成の実体が変るものではない。したがつて、本件審決が、登録請求の範囲の記載のうち「構造、仕様が全く相違する」との部分を省略して本願考案の要旨としたからといつてこれを誤りとすることはできない。

(2)  要旨の解釈について

成立に争いのない乙第1号証によれば、本願考案の明細書中、考案の詳細な説明欄には、原告の主張するとおり、2階以上の床通路の要所にガラス又はビニール製凹レンズ型採光所を設置し、屋根及び周囲をガラス又はビニール葺き及びガラス又はビニール製の建具取付けとするほか、給水、暖房用の附属設備を装置する旨の記載があるけれども、登録請求の範囲欄には、右のような具体的構成についての記載はないのみならず、明細書には他に、このような具体的構成に一義的当然に限定されると解すべき記載も存しないことが認められる。してみると、本願考案の要旨を原告主張の構成に常に限定して解釈しなければならない必然性は認められず、考案の詳細な説明欄の右記載は、一実施例の構成を示したにすぎないと解するのが相当であるから、本件審決が要旨の解釈を誤つたということもできない。

(3)  相違点について

①  本願考案が農作物を栽培するための農地を立体的に拡大することを目的とするものであることは、当事者間に争いがない。これに対し、成立に争いのない乙第2号証によれば、引用例には、銀行、会館、ホテル、ビル等の屋上を有効に利用するため、これらのビルの屋上に植土を施して人工土地を作り、そこに草花、樹木等を植えて花壇や庭園としているものが記載されていることが認められるから、引用例のものは、草花、樹木等の植物を栽培するための人工土地を建物の屋上に新しく造つているものということができる。したがつて、本願考案も引用例のものも植物を栽培するための人工土地を立体的に拡大することを目的とする点においては差異がない。

もつとも、両者の間には、当該人工土地において栽培を目的とする植物の種類が異なつているが、本件審決は、両者の相違点(ハ)として、本願考案が人工土地を特に農地とするのに対し、引用例のものは農作物以外の植物栽培用土地としている点において相違するとしたうえ、本願考案のように人工土地に稲、麦その他の農作物を植栽することは、引用例から容易に想到しうるとしているのであつて、両者における栽培植物の種類の相違を看過しているわけではなく、また、植物栽培用の人工土地の作成に当り、これを農作物栽培用とするか、その他の植物栽培用とするかは、適宜採択できることにすぎず、農作物栽培用にするという着想に至ることが困難であるとは認められないから、本件審決の右判断に誤りはない。

なお、原告は、本願考案が特に農作物の常時安定栽培を可能にする旨主張するところ、前掲乙第1号証によれば、本願考案の明細書中、考案の詳細な説明欄に、本願考案の効果として、給水、暖房、採光等の諸設備によつて四季を通じて農作物の育成を可能にし、暴風、水害、冷害等の自然災害から農作物を守ることができる旨の記載があることが認められる。しかしながら、右は、一般に、適宜の建物内に農作物を育成することによつて収めうる効果であつて、本願考案の要旨とする構成によつてのみ特段に収めうる効果ではないから、右主張は採用に値しない。

②  本願考案が2階以上を農地に適するような構造、仕様とするものであることは当事者間に争いがないけれども、これが、原告主張のようなガラス又はビニール製の屋根、周壁及び凹レンズ型採光所を設け、給排水、暖房用設備を備えるという構成に限定されるものではないことは、前記(2)に判断したとおりであるから、本願考案が右構成に限定されていることを前提とする原告の主張((3)の②)は失当である。

しかも、本願考案の要旨における「2階以上を農地に適応するごとく造る」とは、2階以上の建物部分に農作物栽培用の人工土地を造るために少なくとも必要とされる構造、仕様を備えていれば足りるものと解されるところ、前掲乙第2号証によれば、引用例には、ビル等の屋上に、下層階への荷重や防水性のほか、栽培植物の種類やそれに適した土質を考慮した設計と施工により人工土地を造り、草花、樹木を植えて花壇や庭園とするものが記載されていることが認められるから、引用例のものも、建物の上層階を植物栽培用の人工土地とするのに適する構造、仕様を有するという限度においては、本願考案の構成と変りがない。そして、人工土地を2階以上に造る(本願考案)か、屋上に造る(引用例のもの)かは、後記(3)のとおり、任意に選択しうる程度のことであり、また、人工土地を農作物の栽培用、すなわち農地とすることも前記(1)のとおり、引用例からきわめて容易に想到しうることであるから、この点についてした本件審決の判断に誤りはない。

③  本願考案が2階以上の各階に農地に適するように植土を施すのに対し、引用例のものが建物の屋上に植土を施すものであることは、当事者間の争いがない。この点に関し、本件審決は、本願考案が2階以上に、引用例のものが屋上に、それぞれ植土を施した点において相違するとしても、それは建物を利用する目的によつて当業者が容易に選択できる程度のことであるとしている。

一般に、植物栽培の技術においては、植物の種類に応じた適切な土壌、土質を選択する必要があることは自明のことであり、前掲乙第2号証によれば、引用例のものにおいても植物の種類に応じた植土を施していることが認められるから、本願考案のように、農作物の栽培を目的として人工土地を造る場合に当該農作物に適した植土を施すべきことは当然のことであつて、本願考案において農地に適するように植土をすることは、引用例からきわめて容易に想到しうるにすぎないのみならず、建物の2階以上の各階に植土を施して植物栽培用の人工土地を造ることは従来周知の技術であり(成立に争いのない乙第4号証、同第5号証)、しかも、本願考案の要旨において、2階以上の構造については、農地に適するように造るという以外に具体的な限定はないから、本件審決の右判断に誤りがあるとはいえない。

④  本願考案が通常の建物である1階と農地に適するように造つた2階以上とを合体する組合わせ構造であることは、当事者間に争いがない。しかしながら、本願考案の要旨において、農地に適するように造るべき2階以上の具体的な構造、仕様や1階と2階以上とを合体して組合わせる具体的な構成は何ら限定されていないことが明らかである。したがつて、本願考案において、2階以上の構造としては、2階のみにとどまり3階以上は存在しない場合、2階以上の各階が1階の床面積より小さい場合、あるいは、周壁や屋根がない場合等も除外されるものではなく、また、1階と2階以上とを合体して組合わせる構造としては、当初から2階以上を農地とすることを企図として設計し、1階と2階以上とを一体に構築して農地とする場合は勿論、一体的に構築されている既存の建物を利用して、2階以上に新たに植土して農地とする場合をも包含するものというべきである。一方、引用例ものは、すでに認定したとおり、銀行、会館、ホテル、ビルを利用して、その屋上に植土を施して人工土地を造り、草花、樹木等を植えて花壇や庭園としたものであるから、植物栽培用の人工土地を設けた最上階の通常の建物として使用されている下層階とが一つの建物として一体的に構築されていることにおいては、下層階の通常の建物部分と植物栽培用の人工土地に適応するように造つた上層階の建物部分とが合体されて組合わされた構造であるといつて妨げないものであり、その限りにおいて本願考案の構成と共通している。そして、本願考案が引用例のものと異なり、2階以上の各階を農作物の栽培に適するように植土して農地とすることについては、前記(1)、(3)のとおり、引用例からきわめて容易に想到しうることである。

したがつて、本願考案は、その要旨とする2種類の建物部分を合体した組合わせ構造の点などすべてについて考えても、引用例からきわめて容易に推考できたものということができるから、原告の主張は、結局、理由がない。

3. よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第7条及び民事訴訟法第89条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(荒木秀一 橋本攻 永井紀昭)

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